前話の平面型標準時日時計では、影棒の仰角を真北水平方向から45°の条件を設計例として紹介したが、影棒の仰角を変えて垂直条件で設計すると方位型日時計になる。本話の目的は、この方位型日時計としても使える太陽方位早見シートにより、時刻と太陽方位との関係について理解を深めていただくことである。
時間の経過とともに太陽は天球上を移動し、それに伴い太陽方位も変化するのは誰もが実感している現象であるが、季節や時刻や場所によって実際の太陽方位がどのような変化をするのかを正確に示した資料が少ないためか、太陽方位の移動速度は時計の針のように一定だと思い込んでいる人が少なからずいる。「腕時計を水平にして時針と文字板12時の中間方向を太陽の方位に向けると文字板12時方向が南を指す」という大きな誤差を生じる可能性の極めて高い方法が、古くから世間一般の常識みたいに言い伝えられていることが最大の要因と思われる。この方法に潜んでいる誤差のことがほとんど語られずに利便性のみが伝わっていることに対して、私は時計メーカーに入社した直後からすごく気になっていた。残念なことに今でも時計メーカーの中にもこの方法が正しいと信じている人が少なからずいることだ。時計の取扱説明書の一部に誤差に関する説明なしでこの方法が記載されているのを当時から何度となく見かけており、その都度強く指摘したことが記憶に残っている。その効果なのかはわからないが、誤差があると注釈を加えて記載するようになったのは比較的最近のことである。この話は、星を見ることを趣味にしていて天球の動きを把握している方には驚きの話かも知れない。もちろん私はこういう誤差を伴う時計の使い方は、正しい知識の普及にはマイナスになるから絶対に書いてはいけないものと考えている。時計メーカーに勤める人間としては、時計に関連する正しい情報を提供する責任もあるので、本話の太陽方位早見シートの設計例を紹介しながら、時刻と太陽方位についての関係をあえて1話を使って説明することにしたのである。
平均太陽(平均太陽時を定義するために考えられた、天の赤道上を一様な速さで運行する仮想の天体)が実際の太陽と一致していれば、地球の南北両極点では垂直に立てた棒の周囲に放射状の等角度間隔の目盛を刻めば平均太陽時を示す日時計ができる。しかし、この条件であっても、観測地点が地球の両極点を離れるにつれて、赤道座標から地平座標に転換したときの時角(天の北極から見て、天の子午線を基点に西まわりに測った角度)と方位角(方位角は一般に北を基点にとるが、以下の説明では時角との値を比較するため、南を基点に西まわりに測った角度とする)との間の角度差が大きくなってくる。
時角Hと赤緯δから方位角Aへの転換式は、観測地点の緯度をφとすれば下式で表わされる。
tanA = cosδ sinH /(sinφ cosδ cosH − cosφ sinδ)
この式において、春分(秋分)、夏至、冬至の太陽の赤緯をそれぞれ 0°、+23.4393°、−23.4393°とし、時角と方位角および両者の角度差(方位角−時角)を、北緯30°と北緯35°と北緯40°について計算した概算値は、下記の通りである。
| 北緯30° |
| |
時角 |
0h |
1h |
2h |
3h |
4h |
| 時角(角度) |
0.0° |
15.0° |
30.0° |
45.0° |
60.0° |
| 春分の方位角 |
0.0° |
28.2° |
49.1° |
63.4° |
73.9° |
| 春分の角度差 |
0.0° |
13.2° |
19.1° |
18.4° |
13.9° |
| 夏至の方位角 |
0.0° |
67.4° |
83.4° |
91.8° |
98.2° |
| 夏至の角度差 |
0.0° |
52.4° |
53.4° |
46.8° |
38.2° |
| 冬至の方位角 |
0.0° |
16.8° |
31.7° |
44.1° |
54.2° |
| 冬至の角度差 |
0.0° |
1.8° |
1.7° |
−0.9° |
−5.8° |
北緯35° |
| |
時角 |
0h |
1h |
2h |
3h |
4h |
| 時角(角度) |
0.0° |
15.0° |
30.0° |
45.0° |
60.0° |
| 春分の方位角 |
0.0° |
25.0° |
45.2° |
60.2° |
71.7° |
| 春分の角度差 |
0.0° |
10.0° |
15.2° |
15.2° |
11.7° |
| 夏至の方位角 |
0.0° |
52.5° |
74.2° |
85.9° |
94.5° |
| 夏至の角度差 |
0.0° |
37.5° |
44.2° |
40.9° |
34.5° |
| 冬至の方位角 |
0.0° |
15.9° |
30.4° |
42.9° |
53.5° |
| 冬至の角度差 |
0.0° |
0.9° |
0.4° |
−2.1° |
−6.5° |
北緯40° |
| |
時角 |
0h |
1h |
2h |
3h |
4h |
| 時角(角度) |
0.0° |
15.0° |
30.0° |
45.0° |
60.0° |
| 春分の方位角 |
0.0° |
22.6° |
41.9° |
57.3° |
69.6° |
| 春分の角度差 |
0.0° |
7.6° |
11.9° |
12.3° |
9.6° |
| 夏至の方位角 |
0.0° |
41.9° |
65.8° |
80.2° |
90.7° |
| 夏至の角度差 |
0.0° |
26.9° |
35.8° |
35.2° |
30.7° |
| 冬至の方位角 |
0.0° |
15.2° |
29.4° |
42.0° |
53.0° |
| 冬至の角度差 |
0.0° |
0.2° |
−0.6° |
−3.0° |
−7.0° |
仮に、経度による時差や均時差(季節に伴なう太陽の東西方向の変動)がなく、太陽の南北方向の赤緯変化のみとした場合であっても、計算例の緯度付近でこの方法が実用になるのは、冬至のころだけである。北回帰線より北では、夏至に近いほどまた緯度が低いほど、角度差の最大値も大きくなる。その理由は、太陽の最高高度が高くなる条件ほど天頂に近い所を太陽が通るので、天の子午線を通過する時の方位の変化速度も大きくなるからである。以上はごく単純化した概算であったが、実際にはこれに経度による時差や均時差や赤緯の時間変化が加わるので状況はもっと複雑になる。
この時刻と太陽方位との関係を示すために設計したものが太陽方位早見シートであり、図1および図2は、それぞれ東京(国立科学博物館)と大阪(大阪市立科学館)を計算基準点とした長方形レイアウト例である。時刻線は、毎正時を太くしてある。時刻線の間隔は、10時から14時の間が10分で、それ以外の部分では30分である。いずれの場合も同時刻であっても太陽の方位は季節により大きく変化することがわかる。2つの図を比較すると、経度による時差がよくわかる。この図によって、時計の時針を使って太陽方位を求める方法は、大きな誤差を生じる危険性を含んでいることが理解していただけたと思う。このシートは、日の出時刻や日の入りの時刻とその方位も読み取ることができ、鉛筆を立てると日時計として使うこともできる。尚、日の出時刻線と日の入り時刻線は、大気差の補正をしてある。
図1
図2
さらに付け加えるならば、観測地点が南北回帰線の間に入ると太陽の方位変化の向きまで季節により逆転する。南回帰線を越えると方位変化の向きが北回帰線より北にある地点に対して年間を通して逆になる。時計の時針を使う方法は、もはや全く意味を成さなくなるのである。
この太陽方位早見シートは、下敷サイズの縦横比で設計してある。学校や家庭に教材として広く普及すれば、時計の時針を使った方法で方位を大きく間違えることもなくなると思う。 |